お金の支配2 つづき

■会社人間になると、お金があっても老後に苦しむ?

 団塊世代やそれより上の世代では「会社ひとすじ」という人がたくさんいました。友人関係などの人間関係もほとんどの時間が社内のつながりを通して培われ、人生のほとんどの時間も会社で過ごしながら社会的な満足を満たしてきたからです。

 しかし、「働きがい」イコール「生きがい」になってしまうと、定年退職を迎えて困ってしまうことになります。生きがいのほぼすべてがある日を境になくなってしまうからです。現役時代は仕事の後に飲みに行ったり、週末にゴルフに行ったりしていた友人も、定年退職後にはほぼ疎遠になります。半年に1回開催されるOB会のゴルフコンペを毎日首を長くして待つ老後はちょっと寂しいものです。

 生きがいが途絶えてしまった男性が、いきなり家族サービスに目を向けてみても、女性は地域でのつきあいをたくさん持っていたり、上手に友人関係を持っていたりするので、男性だけが放っておかれるということになります。

 こうなるとなかなか悲しいもので、せっかくのお金があってもバラ色の老後とは呼べない日々を過ごすことになります。男性の寿命が女性より短いといっても、65歳の段階で19年ほどの余命があります。バラ色の老後にしたければ、お金以外の幸せも現役時代にみつけておかなければならないわけです。

 つまり、自分の中の「生きがい」を構成する要素として「暮らしがい」をみつけておかないといけないのです

■バラ色老後にとって、ひとりで過ごす時間も貴重な財産

 ところで、今までの話と逆転するかもしれませんが、ひとりで過ごす時間を大切にしておくことも必要です。

 セカンドライフにおいては、どうしてもひとりの時間が増えることになります。会社では同僚とともに過ごし、家では家族とともに過ごしていた時間が当たり前であった人にとって、大きな落差です。しかし、子どもが家を離れ、仕事はなくなったとき、もてあますほどのたくさんの時間をどう有意義に過ごすかは大事な課題のひとつとなってきます。

 その意味で、趣味はとても重要です。趣味はたいていの場合個人的なものだからです。ひとりで楽しむ趣味と誰かと交友しながら楽しむ趣味、お金がかからない趣味とお金がかかる趣味、ゴールがはっきりしている趣味と長く時間をかけて楽しめる趣味などをバランス良く、現役時代に探していけるといいでしょう。

 

有名な釣りと酒を愛した作家・開高健さんのことばです。

1時間幸せになりたかったら、酒を飲みなさい

1日幸福でいたかったなら、床屋にいきなさい

3日間幸せになりたかったら、結婚しなさい

1年幸福でいたかったなら、新しい家を建てなさい

一生幸福でいたかったなら、釣りをおぼえなさい

 例えば歴史に趣味を持つことはうまい選択肢のひとつです。最近は歴史愛好家の女性を「歴女」というようですが、ひとりで書籍を読んでみることも、友達と旅行に行くこともできます。いろんな地方を巡ったり、地方の図書館で書庫から古文書を見てみたりと関心を深めていくごとに世界が広がってきたりします。

 ひとりで過ごす時間が、人とつながったり社会とつながる時間の大切さを引き立てる役割もあったりします。

■お金で人や社会とつながることを意識してみる

「つながり」のうち、地域活動やボランティアに携わるのは、自分自身の体を使って社会とつながるアプローチです。新しい生きがいのひとつとして、無理のない範囲で人とつながり、社会に貢献することを考えてみることは、セカンドライフ以降はもちろん、現役時代の今でも交友が広がるなどのいいきっかけになるはずです。

また、「つながり」のうち、寄付を通じたつながりと、投資を通じたつながりは、自分のお金が人や社会とつながるアプローチになります。これから先、より重要となってくるのは自分のお金がどうつながっていくか、かもしれません。

 寄付と投資がどちらも社会をよくする可能性を秘めています。しかし、「寄付=良い行為」「投資=ずるい行為」というような二極論ではなく、「お金で人や社会とつながる」ということを考えてみると、世界はぐっと広がってきます

 (余談ですが、政治家がよく用いる「投資=金持ちのやること」というキャッチコピーは時代錯誤の発言だということは誤りです)

 寄付については基本的にお金は戻ってきませんので、無理のない範囲で行うことが大切です私の場合は東北地方に現金を寄付するのではなく、東北の産物を購入して東北地方の活性化を狙ったような寄付のやり方も一つだと思います。投資については一瞬にしてゼロになるような運用方法を選ばず、会社とともに自分の資産も成長するような投資をしてみるといいでしょう。こちらも元本割れの可能性はありますので、無理のない金額を設定することが必要です。

 自分のお金がどこかにつながって、世の中に影響していることを考えてみるのは、若い世代にとっても年金世代にとっても重要なことです。それこそ日々の買い物の数百円も、たくさんのメーカー、配送業者、小売店を潤す売り上げですし、それらの会社に勤める人のお給料の源泉になっています。そんなところまで想像してみると、「生きたお金の使い方」を考えるよいきっかけになります

 社会や人とつながっていく、「気持ちのいいお金の使い方」についてはバラ色老後実現のキーワードとして2013年も考えてみたいと思います。

■自分にとって「ちょうどいいつながりかた」を探そう

人と人とのつながりや人と社会とのつながりは、自分自身にとっての「絆」を感じる機会でもあり、社会にとっても社会を豊かにするために必要な「絆」のひとつでもあります。ぜひ、自分にとってちょうどいいつながり方を考えてみてください。

人とつながることがストレスになるような団体と無理に関わる必要はありません自分が意に沿わない活動をする団体に寄付をする必要もありません自分の気持ちのよいつきあい方ができる相手を探してみればいいのです。

 今、生活に困っているのに寄付をする必要もありません。「余裕が出たら、きっと支援しよう」でもいいのです。あるいは、金額が小さくても自分の気持ちよく出せる額を出すことが大切です。寄付をしたあと借金をするようなことは絶対にやってはいけません。

 投資も同じです。自分が応援したいと思える会社の株主になればいいのです。短期的には業績が落ち込んだり、市場の評価が厳しいことで元本割れになったりすることもよくあります。個人が気持ちよく投資できる範囲でつながればいいのです。

 私たちは今、たくさんの選択肢がある時代に生きています。選択肢が多すぎるからこそ、ちょうどいい「つながりかた」に悩まされます。自分の頭でしっかり考え、自分が続けられる方法を探してみてください。

 今日明日にはみつからなくてもいいのです。少しだけ、頭で意識しながら毎日を過ごしていけば、もしかすると数年後、一生の出会いとなるような「つながり」を見つけられるかもしれません。そうすればきっと、バラ色老後はお金の多寡だけではなく、心の豊かさも含めて美しく花開くことでしょう。